展覧会「拡大するシュルレアリスム」の概要と見どころ
「結局、シュルレアリスムって何なの?」
誰もが一度は目にしたことがある、ダリの溶ける時計。現実ではありえない不思議な世界観に魅了される一方で、どこか難解なイメージを抱いている方も多いのではないでしょうか。
2025年、大阪中之島美術館で開催中の「拡大するシュルレアリスム」展は、そんな私たちの「常識」を鮮やかに裏切ってくれる、驚きに満ちた展覧会でした。
私はこの展示を通じて、「夢と現実を混ぜ合わせ、常識をひっくり返す芸術」としてのシュルレアリスムの面白さに改めて気づかされました。
本記事では、展示の見どころはもちろん、ダリ、マグリット、デュシャンといった巨匠たちの名作を、AIによる深掘り解説も交えてレポートします。これを読めば、美術館での体験が10倍楽しくなるはずです。
今回は、撮影可能な作品の紹介や、意外と知らない著作権にまつわるエピソードなど、現地へ行く前にチェックしておきたいポイントをブログにまとめました。週末のお出かけの参考に、ぜひ最後までご覧ください。
開催情報(会期・アクセス・料金)
会期:2025年12月13日(土) – 2026年3月8日(日)(閉館日あり)
前期:12月13日(土)– 1月25日(日) 後期:1月27日(火)– 3月8日(日)
開場時間:10:00 – 17:00(入場は16:30まで)
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
住所:大阪府大阪市北区中之島4丁目3−1
地図:Googleマップで開きます
観覧料:一般1800円(団体 1600円)/ 高大生1500円(団体 1300円)/ 小中生 500円(団体 300円)
サルバドール・ダリ|溶ける時計だけではない「計算された違和感」
ダリといえば、溶ける時計の絵が頭に浮かびます。
今回の展示作品は、私が知ってるダリと違ったイメージにも出会うことができました。
1. 鉄道ポスターに見る「意外な一面」


【↑画像】オーベルニュの火山や溶岩(濃い茶色、赤、黒)が抽象化され、蝶を書き足す奇妙なイメージがダリらしいですね。
2. 深層心理を読み解く:作品「幽霊と幻影」


【↑画像】非現実的(シュルレアリスム的)な存在を描いています。
AIで読み解く「幽霊と幻影」の6つのシンボル

【↑画像】画面に書かれた6つのモチーフについてAIに解説してもらいました。
1. 糸杉(死の象徴)
解説: 糸杉は、地中海沿岸では墓地に植えられることが多く、ダリの作品では「死」や「悲しみ」の象徴として描かれます。
2. 砂漠に座り込む乳母の後ろ姿
解説: このモチーフは、後ろ向きで座っているように見え、乳母は、ダリにとって幼少期の記憶や生命の源を象徴すると解釈されることが多いです。
3. 逃げ水
解説: 砂漠の蜃気楼(しんきろう)の一種です。ダリは、現実ではないのにリアルに見える現象を取り入れることで、「幻影」という作品テーマを強調しています。
4. 崩れかけた岩塊
解説: ダリの初期作品に不安定な岩や雲がよく描かれている。この形が「幽霊」や「幻影」というタイトルの核心であり、生物のようにも、崩れかけた地形のようにも見える。
5. 巨大な雲
解説: 無意識の不安と破壊のエネルギーを体現する、巨大で不穏な形。その有機的な塊は、「幽霊」と「幻影」という題名の中核を成しています。
6. 虹の光線
解説: 黄色やオレンジ色の光の筋のことです。虹の光線と説明されていますが、実際には光の筋として表現されており、壮大な風景に劇的な効果を与えています。
3. 自然と蝶が織りなす「ダリらしさ」
1969年に制作されたフランス国有鉄道のポスター。観光地の要素をしっかり押さえつつも、どこか奇妙で強烈な違和感を見る人に与えます。広告としてのセオリーをあえて外すことで、私たちの目を釘付けにするダリの計算された戦略が光る一枚です。


【↑画像】フランス国有鉄道のポスター
4. 中心に潜むのは「私」か「太陽」か。1965年の点描自画像
この絵は、遠くから見ると「巨大な太陽(あるいは顔)」に見えますが、近づくと無数の色の点や異なるモチーフが浮かび上がってくる視覚的な二重性を持っています。
二重映像の追求: 太陽の中に描き込まれた「目」や「ひげ」のような曲線は、ダリ自身の自画像とも、あるいは全く別の風景とも受け取れる「ダブル・イメージ(二重映像)」の手法を用いています。


【↑画像】ダリの太陽
ルネ・マグリット|「コピペ」して神秘に変える魔術師
私がマグリットの作品を好きな点は、夢の中に出てきそうな不思議な感覚になる点です。
だまし絵の手法によって頭の中で錯覚しながらも、マグリットの魅力に引き込まれます。
今回の中之島美術館で、マグリットの作品を5点見ることができました。
以下の2点は撮影が許可された作品ですが、美術館で見られたらもっと素晴らしいです。
「レディ・メイドの花束」に見る引用のセンス


【↑画像】レディ・メイドの花束と作品の解説。
解説にある「婚姻」って何?
マグリットは、本来であれば「無関係なもの同士」を組み合わせることで、日常に潜む神秘性を表現しようとしました。
この作品における「婚姻」とは、単なる結婚式のような意味ではなく、「出会うはずのない二つの世界の融合」を指しているようです。
出会うはずのない二つの世界とは、「現代の男性」と「神話の女神」でしょうかね。
なぜレディ・メイド(既製品)?

【↑画像】ボッティチェリ「春」は、パブリックドメイン:ウィキメディア・コモンズから引用。
「レディ・メイド」とは、後ほど説明するマルセル・デュシャンが便器を芸術作品として発表したように、既製品をそのまま使う手法を指します。
マグリットのレディメイドは、美術館の解説にもあるように、模写ではなく「引用(コピペ)」だということです。
自分でゼロから女神を描くのではなく、あえて誰もが知っている有名作品をコピーして、背中にペーストしたようですね。
当時はコピペが許されたのか?
- マグリットが「レディ・メイドの花束」を作成したのは1957年。
- 当時はボッティチェリの著作権はとっくの昔に消滅しており、誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン(公共財産)」の状態でした。
マグリットはこの引用(コピペ)を「レディメイド(既製品)」と呼び、コピペの免罪符としたと言われている。
これはマルセル・デュシャンが提唱した「すでにある物を、アーティストが選ぶことで芸術にする」という概念を絵画に応用したものです。
この作品のタイトルの付け方は、上手いなぁ〜と感心しました。
「王様の美術館」に隠された不在の存在感


【↑画像】「王様の美術館」と作品の解説。
目を持つシルエット
通常、マグリットの描く「山高帽の男」は後ろ姿であったり、顔が隠されていたりすることが多いのですが、この作品ではシルエットの中に直接「目」と「鼻」が描かれています。
「そこに誰かがいる」という存在感と「中身は空っぽの風景である」という不在感が同時に存在しています。
会場には 他にもマグリットの作品が
会場内には、マグリットの作品が5点展示されていました。
紹介した2点以外には「人間嫌いたち」「観光案内人」「対遮地の黎明」などが展示されています。
撮影ができなかったので、会場でお楽しみください。
マルセル・デュシャン|「便器」が芸術に?概念を覆した革命児
便器を芸術と言い張った男デュシャンの真意を探ろう
デュシャンといえば「泉」という作品が有名ですね。それは既製品の便器に彼がサインをしただけ。その便器を彼は自分の作品として展示したのです。
当然ですが、芸術界隈で批判が集中した作品です。それは100年以上も前の事ですが、なんとも斬新な考え方をする芸術家がそんな昔に存在したことは驚きです。
そのデュシャンの作品が中之島美術館に展示されるということで、ワクワクしながら行ってきました。
今回はデュシャンの作品が6作品展示されていた。
「泉(便器)」は、今回の展示にないですが、デュシャンを語る上で重要な作品なので、解説をさせていただきます。

【↑画像】泉を展示したイメージ画(AI作成)。
「泉」が発表された1917年当時の芸術界隈の意見。
当時の世間の主な意見
・これは芸術ではない、下品なオブジェである
・芸術とは、手作業と技術によって生まれるべきもの
・創造的な苦労や技術的熟練が一切含まれていない
・便器はデュシャンが制作したのではなく、作者はメーカーだ
彼を擁護する意見
・便器の「見た目」ではなく、デュシャンの行為そのものにこそ芸術的な意味がある
・芸術とは、素材や技術ではなく、概念である
・「便器を便器として使わない」という作者の選択と、その作品を鑑賞するという行為を提案しており、思考と概念こそがアートの本質だと主張する
私の感想
私がこの作品のことを知ったのは30年前。
現代アートが浸透している時代なので、違和感はなかったです。
しかし、いま思うとデュシャンが100年以上も前に、既製品を作品として展示するというユニークな発想が素晴らしいと思う。それも便器というのが、良い意味でイカれてる。
今回中之島美術館では、「泉(便器の作品)」は展示されていませんが、展示されていた6つの作品のどれも、どれも彼らしい作品だなぁと感じた。
【展示あり】最初のレディメイド「瓶乾燥器」
会場に入ってすぐに見つけた「瓶乾燥機」について紹介します。
作品を見て私の感想は「何これ!」「これがアート?」「どうみてもコップを乾かす器具」みたい…
その考えは、ほぼ正解だった。
題名を確認して「作品名:瓶乾燥機」「作家名:マルセル・デュシャン」
あぁ〜、あのデュシャンね、とスグに便器の作品を思い出した。

【↑画像】作品のイメージをAIで生成。
会場で本物の作品をお楽しみください。
彼がレディメイド(既製品)を作品として発表した、一番最初の作品がこの「瓶乾燥機」です。
「瓶乾燥機」に関するエピソードを紹介いたします。
1. 偶然の「選択」
デュシャンは1914年、パリのデパートで瓶の乾燥器を購入する。
それはワインボトルなどを逆さまにして水気を切るための、金属製の既製品の器具です。
彼はこの乾燥器に何も手を加えることなく、作品として発表した。
自分の署名だけを加えようとしましたが、最終的には署名せずに、単に「レディ・メイド(既製品)」として作品にしました。
2. 「最初の純粋なレディ・メイド」
この《瓶乾燥器》は、一切手を加えず、純粋に既製品のまま提示された最初の作品の一つと言われている。
デュシャンは「芸術作品を『実用品』として捉えない」というデュシャンの考え方を最もストレートに表現した作品だと多くの芸術評論家によって語られています。
『実用品』として捉えないとは
この言葉の意味は、これを芸術作品とデュシャンが決めた時点から、瓶乾燥器は実用品ではなくなり、美術品になったということなのでしょうね。
3. オリジナルの消失で50年後に復刻版を作成

【↑画像】今回の中之島美術館のパンフレットに記載されている年代が2つ。
1914年:ディシャンがデパートで買った乾燥器が作品とされた年代です。
1964年:復刻版として制作された年代です。
『瓶乾燥器』のオリジナル作品は、デュシャンがパリからニューヨークへ移住する際に行方不明になり、紛失してしまいました。
中之島美術館で展示されていたのは、この1964年版(シュワルツ版)の再制作作品です。
シュワルツ版とは
ミラノのシュワルツ画廊(Galleria Schwarz)が中心となって制作・販売したエディション(限定:6/8)の一つ。
「シュワルツ版」の各作品には、デュシャン本人が署名やナンバリングを施しています。
【展示あり】なぜスコップが「折れた腕」なのか?
中之島美術館で、この作品「折れた腕の前に」は第1章のブースの天井から吊るされていました。
えっ、スコップ?
と疑問に感じた後に、あ〜やっぱりデュシャンね。
なるほどと思いました。
彼自身が自分のスタジオで天井から吊るして展示していたので、他の美術展の時も天井から吊されて展示しているようです。

【↑画像】作品のイメージをAIで生成。
会場で本物の作品をお楽しみください。
作品名「折れた腕の前に」とスコップの関係
「瓶乾燥器」はストレートな名前だったのに、スコップはなぜ「折れた腕の前に」なのか気になりますよね。
デュシャン自身は「タイトルに何の意味もない」「単に言葉を選んだだけだ」と語っている。
従来の絵画のように「タイトルが作品の内容を説明する」という役割を排除するためです。
しかし評論家の見解では、「スコップで雪かきをすることで、凍った道で滑って腕を折ることを防ぐ」というジョークだと解釈しています。
これも紛失に
この作品も発表されて、約50年後に復刻版が作られています。
中之島美術館のパンフレットにも「1915年/1964年」と二つの年代が書かれていました。
紛失の経緯:レディ・メイドが発表された当初、これらは美術作品としてほとんど認識されていませんでした。
そのため、スコップは単純に日常の道具として扱われ、そのうちにオリジナルのスコップはいつの間にか失われてしまったと考えられています。
【展示あり】コートかけ? 作品名:罠
この作品は、どうみてもコートかけです。
タイトルが「罠(Trap)」ということで、デュシャンの意図を深掘りしました。
彼は、本来壁に掛けるべきコート掛けを床に釘で打ち付けました。
「罠」にかかるのは誰?床に釘付けされたコート掛けの秘密

床に固定した意図:
日常品を本来の場所から引き剥がし、機能性を奪うことで、観客の「これは何のためのものか?」という常識的な思考を物理的・精神的に転倒させようとしました。
罠の正体:
物理的に「足を引っ掛けて転ばせる」ための罠です。
作品名『Trébuchet(罠)』の核心を突く
タイトルの『Trap』 は、英語題です。
美術館などでは、観客にその意図を分かりやすく伝えるために、英語表記されるのが一般的です。
原題のフランス語『Trébuchet(トレビュシェ)』は、単なる「罠」というより、「(足を引っ掛けて)躓かせるもの」というニュアンスが強い言葉です。
チェスの戦略家でもあったデュシャンは、『Trébuchet』という言葉は、チェス用語で「相手をはめる手」を意味。
床にコートかけを置くことで、物理的にも、そして「芸術とは何か」を考える観客の思考的にも、文字通り「躓き」を仕掛けたのです。
【まとめ】中之島で20世紀美術の神髄に触れる
今回の「拡大するシュルレアリスム」展を振り返って、改めて感じたのは20世紀美術が持つ圧倒的なエネルギーです。
ダリ、マグリット、そしてデュシャン。彼らが当時の常識を打ち破り、「概念」そのものを提示したことで、今の現代アートがあるのだと深く実感できる内容でした。
今回ご紹介した3名の作家以外にも、マン・レイ、スキャパレッリなど素晴らしいシュルレアリスムの作品を楽しむことができます。
一見「奇妙」に見える作品も、その背景にある意図を知ることで、自分なりの解釈を楽しむというアートの醍醐味を味わえます。
大阪中之島美術館は、周辺のレトロ建築や水辺の散策とあわせて楽しめる最高のロケーションにあります。
今、大阪観光を計画中の方は、ぜひコースの一つにこの展覧会を加えてみてください。
きっと、あなたの日常の景色が少し違って見えるような、素敵な「罠」にかかる体験ができるはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今後も旅の情報を書いていきます。どうぞよろしくお願いいたします!
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